時間を奪われ続けている私たちのためのレッスン。
2001年にニューヨークのメトロポリタン美術館が発表したデータは、実に驚くべきものだった。美術館を訪れた鑑賞者がひとつの絵画作品にかける時間は、たったの27秒だというのだ。
―――――『DEEP LOOKING』ロジャー・マクドナルド
この調査が行われたのは今から25年以上も前、スマホどころか携帯電話が普及したばかりのころだから、どうやらそれらが直接の“犯人”ではないようだが、とにかく美術館でアート作品を見ている僕たちは、作品を「ほとんど見ていない」らしい。
ましてや、一日24時間いついかなるときも情報が怒涛の洪水のように目の前に流れ続ける現代においては、その日常の忙しなさは加速度的に増しており、「一秒でも速く」答えを出すことを求められている。数十秒の視聴に最適化されたショート動画。“タイパ”向上に寄与する倍速視聴……「さすがにそこまではね」と避けているつもりの自分ですら、生きている時間の多くで電子機器に注意を奪われ続けていることに変わりはない。
そんな我々に、今こそ「ディープ・ルッキング(深い観察)」が必要だ、と語りかけるのが、『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』(AIT Press)の著者である、ロジャー・マクドナルドさんだ。アート・キュレーターとして長年にわたりこの分野で独自に研究を行なってきた彼は、古代から現代までの東西のアーティストたちが模索してきた歴史をたどり、「深い観察がもたらす非日常的な意識状態」によって心身を解きほぐし、感覚を研ぎ澄ませてクリエイティビティを育むためのメソッドを改めて提唱する活動を行っている。
「ムーンストラック・カルティベーション」の記念すべき第一回イベントである今回は、ロジャーさんと、彼の弟でありロンドンを拠点に活動するアーティストのピーター・マクドナルドさんのお二人を招いて行うことにした。「ディープ・ルッキング」の思想的背景や歴史について解説するトークとともに、参加者の方々にも実際に参加していただける、簡単な「ディープ・ルッキング実践セッション」も行います。といっても、気負う必要はぜんぜんありません。美術館での鑑賞よりも、少しだけ長い時間をかけてアートを「見て/待つ」だけ。今回は特別にピーターさんの「Moon(月)」にまつわる絵画作品を鑑賞したいと思います。
アタマを開いてちょっと気軽になって楽しみながら、自身に潜む想像力を回復するレッスンを一緒にしてみましょう。
井出幸亮(Moonstruck Cultivation)
Flyer Design: 平岡花(Moonstruck Cultivation)